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大阪家庭裁判所 平成5年(家)7108号 審判

平5(家)6446号(甲事件)申立人、同7108号(乙事件)及び同7241号(丙事件)相手方

川谷紀代子

平5(家)6446号、同7108号及び同7241号相手方

松本ハツエ 外2名

平5(家)6446号及び同7108号相手方、同7241号申立人

杉田良子

平5(家)6446号及び同7241号相手方、同7108号申立人

高橋伸子

被相続人 高橋源次郎

主文

1  乙事件申立人高橋伸子の寄与分を、被相続人高橋源次郎の遺産の1割と定める。

2  丙事件申立人杉田良子の申立を却下する。

3  被相続人高橋源次郎の遺産を、次のとおり分割する。

(1)  別紙遺産目録1の不動産のうち、(1)ないし(5)の土地建物は、甲事件申立人川谷紀代子・同相手方松本ハツエ・同杉田良子・同杉田昌江・同渡辺恵子各持分5分の1の割合で共有取得とする。

(2)  同(6)の土地および(7)の建物、同2の電話加入権は、相手方高橋伸子の単独取得とする。

(3)  甲事件相手方高橋伸子は、同申立人川谷紀代子・同相手方松本ハツエ・同杉田良子・同杉田昌江・同渡辺恵子に対し、それぞれ440万円を支払え。

4  本件手続費用は、それぞれこれを支出した者の負担とする。

理由

一件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律上の判断は、次のとおりである。

一  相続の開始、相続人および法定相続分

被相続人高橋源次郎は、昭和62年7月19日死亡し、相続が開始した。

その相続人は、妻ウメ、長女相手方松本ハツエ、2女同杉田良子、3女同杉田昌江、4女申立人川谷紀代子、5女相手方高橋伸子、6女同渡辺恵子の7名(以下いずれも名のみで略称する。)であったが、そのうちウメは平成元年1月15日死亡したので、法定相続分はその余の相続人らが各6分の1ずつである。

二  遺産の範囲、評価および現況

1  別紙遺産目録の土地・建物・電話加入権が被相続人の遺産であることは当事者間に争いがなく、本件記録によってもこれを認めることができる。

2  上記遺産の遺産分割時の価額は、別紙遺産目録の評価額欄のとおりで、合計5億9620万8500円である。

(上記遺産中、土地の評価については、平成6年度路線価が、別紙遺産目録1(1)42万円/m2、(4)正面49.5万円/m2・側面42万円/m2、(6)38万円/m2であること、当事者らの意見が概ね1m2当り50万円前後に一致していることを考慮して、別紙遺産目録評価欄のとおり定めた。)

3  遺産の現況

(1)  別紙遺産目録1(1)の土地上に同(2)の建物(通称高橋文化)が存在し、現在○○○○ほか8名に賃貸中である。

(2)  同(1)(4)の土地に跨がって同(3)の建物(通称高橋第2マンション)が存在し、現在○○○○○ほか13名に賃貸中である。

(3)  同(4)の土地上に同(5)の建物(通称高橋第1マンション)が存在し、現在○○○○ほか10名に賃貸中であるほか、その1室に良子が居住している。

(4)  同(6)の土地上に同(7)の建物が存在し、現在伸子が居住している。

(5)  同2の電話は、同1(7)の建物の中に存在し、現在伸子が使用している。

4  紀代子は、このほか被相続人・ウメ・伸子ら名義の預金合計約3,000万円が遺産として存在する旨主張し、伸子はこれを争う。

上記預金のうち、ウメ名義のものについては、現在当裁判所において、別件で遺産分割調停中である。その他について、伸子は、

(1)  被相続人名義のものは、全相続人の合意に基づき、相続税納付および遺産建物の補修費用に充てるため解約使用し、残余はない。

(2)  伸子ら名義のものは、同人らの固有財産である。

旨主張する。その真否はさておき、本来金銭債権は相続開始と同時に当然分割され、各相続人に帰属ずみであるから、これを分割対象とすることにつき全員の合意がない以上、本件においては、これを分割対象に含めないこととする。

三  特別受益

1  ハツエ・紀代子は、良子・伸子が遺産建物に無償で居住していることを同人らの特別受益とし、遺産への持戻しを主張する。

(1)  良子は、別紙遺産目録1(5)の建物に無償で居住している。その占有権原は使用貸借契約に基づくものと認められ、使用借権相当額の特別受益となるが、右利益は良子が右建物の管理業務を担当することに対する対価の1部であり、被相続人による黙示の免除の意思表示があるというべきである。

(2)  伸子は、同目録1(7)の建物に無償で居住している。

右居住のうち、被相続人と同居していた期間は、単なる占有補助者に過ぎず、独立の占有権原に基づくものと認められない。この間伸子には家賃の支払いを免れた利益はあるが、被相続人の財産には何らの減少もなく、遺産の前渡しという性格がないので、特別受益には当たらない。

相続開始後の居住については、被相続人の生前の言動等から、被相続人の死亡を始期とする使用貸借契約の存在が推認され、使用借権相当額の特別受益があるというべきであるところ、右使用借権相当額を算定する明確な資料がないので、後述の寄与分を認定する際の事情として考慮することとする。

2  紀代子は、被相続人からハツエが422万円、昌江が1750万円の生前贈与をそれぞれ受けている旨主張する。

しかし、それらはすでに被相続人に返済されているか、被相続人による黙示の免除の意思表示があったというべきであるかのいずれかであって、いずれも理由がない。

3  ハツエは、良子・紀代子・恵子が各200万円、伸子が100万円をそれぞれ遺産から勝手に取得しており、遺産分割に際して持戻し計算されるべきである旨主張し、伸子は、右金額の分配は被相続人の死亡後相続人らが拠出した金員を以てしたものである旨抗弁する。

その真相がいずれであれ、上記分配金が遺産から支出されたものであることを認め得る明確な資料がないので、この点に関するハツエの主張はこれを採用しない。

四  寄与分

1  乙事件についての判断

(1)  伸子は、同人が被相続人の要請により就職・婚姻を断念し、以後被相続人の生前その死亡に至るまで終始同居してその事業に協力し、とりわけ遺産不動産を係争物件とする民事訴訟の追行につき被相続人を激励援助し、証拠の収集・立証に協力して逆転勝訴に貢献したこと、妹恵子の2男○○を養子として、これを「高橋家」の「跡取り」としたこと、被相続人の祖先の祭祀を承継したこと等を理由として、寄与分を定める処分の申立をした。

(2)  上記各理由の内、就職・婚姻の断念、訴訟追行の激励援助、「跡取り」指名、祭祀承継については、それが事実であるとしても、被相続人の財産の形成・維持・増加に直接結び付くものではないから、寄与分として考慮すべき事情に当たらない。

また、良子とともに賃貸不動産の管理に当たったことは認められるが、他方伸子は右業務に従事したことにより、自己の生活を遺産不動産の賃料収入により維持しているほか、被相続人から毎月5ないし20万円の専従者給与の支給を受け、これを自己の預金として保有しており、現在まで就職稼働した経験のない同人の財産のすべては、被相続人の遺産により形成されたものと推測され、この点においても同人の寄与分を認める理由とはなし難い。

(3)  しかし、同人提出の証拠によれば、被相続人が遺産不動産に係る訴訟の第一審で敗訴した後、伸子が恵子の夫渡辺博司らの協力を得て証拠の収集に奔走し、遂に控訴審において逆転勝訴の結果を得ることに顕著な貢献があったことが認められ、今日の遺産の存在についてその功績を無視することはできないから、同人の右行為は、訴訟代理人である弁護士の指導があったであろうことを考慮しても、なお親族としての扶助義務の範囲を超え、かつ単なる精神的寄与以上のものであって、遺産の維持につき特別の寄与があったというべきである。

そして、寄与の時期、方法および程度、相続財産の額、上記特別受益その他一切の事情を考慮すると、同人の寄与分を遺産の1割と認めるのが相当である。

2  丙事件についての判断

(1)  良子は、別紙遺産目録1(2)(3)(5)の各建物の維持管理・家賃集金業務に従事してきたこと等を理由として、同人の寄与分を遺産の3割と定めることを申立てた。

(2)  しかし、右管理業務は同人がすべて一人で切り回していたのではなく、賃借人の選定などは被相続人が自らしていたこと、賃貸建物の戸数・規模からみて同人が述べているほど煩雑多忙な管理業務が必要とは認め難いこと(百戸前後の分譲マンションの管理業務を区分所有者団体の役員が本業の傍ら無報酬で務めている例が少なくないことは、当裁判所に顕著な事実である。)、同人は右管理業務の報酬として昭和53年5月以来毎月金5ないし8万円を被相続人から受領しており、これに遺産建物に無償で居住しているほか、一時的にもせよ、居室以外の遺産建物や駐車場を無償で使用していること等の事情を考慮すると、同人の行為は、未だ被相続人の遺産の形成維持に特別の寄与があったと認めるに足りない。

(3)  その他同人が寄与の内容として主張する事実は、いずれも民法904条の2所定の「特別の寄与」には当たらない。

(4)  よって、同人の上記申立は、これを却下するのが相当である。

五  具体的相続分

1  みなし相続財産

末尾計算書(1)のとおり、合計5億3658万7650円となる。

2  具体的相続分の価額及び比率

(その計算関係については末尾計算書(2)(3)参照)

(1)  ハツエ・良子・昌江・紀代子・恵子 各 8943万1275円(0.15)

(2)  伸子               1億4905万2125円(0.25)

六  分割の方法に対する意見等

1  ハツエ(大正12年3月12日生)

良子・伸子の寄与分をいずれも否認した上、全員につき各自の法定相続分の割合による換価分割または共有分割を希望している。

2  良子(昭和2年9月16日生)

自己の寄与分として別紙遺産目録1(4)(5)の単独取得を希望している。

伸子の寄与分については、自己と同一の割合を限度として認める。

3  昌江(昭和4年10月29日生)

上記ハツエと同じ。

4  紀代子(昭和7年5月2日生)

主位的に均等割合による換価分割、予備的に別紙遺産目録1(6)(7)の土地建物を伸子と恵子の共有・残余をその他の相続人で均等共有することを希望している。

5  伸子(昭和10年1月19日生)

良子の寄与分は認めるが、自己の寄与分として別紙遺産目録1(6)(7)のほか同(4)(5)の取得を希望し、これにより他の相続人の取得が過少になる場合は代償金を支払う用意がある旨を述べている。

6  恵子(昭和12年12月12日生)

良子の寄与分は否認、伸子の寄与分は遺産の8分の3を限度として認める。その残余を伸子を除く相続人らが均等に換価分割することを希望している。

七  遺産の分割

以上認定のような遺産の種類、その管理・占有の状況(特に良子・伸子が本件遺産に居住していることを考慮すると、換価分割は相当でない。)、遺産の価額、遺産分割に対する各相続人の意見、その他諸般の状況(特に、良子の寄与分の認否など相続人の間に意見の分裂が多いことを考えると、不動産を共有とすることは後日に紛争の因を残しかねず、できるだけ避けるべきであるが、別紙遺産目録1(3)の建物が同(1)および(4)の各土地に跨がって存在しており、本件審判手続に先行する調停段階において右両土地の分筆につき相続人らの協力が得られず、分筆できなかったことから、共有にするほかないこと)を総合すると、本件遺産は、次のとおり分割するのが相当である。

1  ハツエ・良子・昌江・紀代子・恵子の取得

別紙遺産目録1(1)ないし(5)の各土地建物につき、各持分5分の1の割合による共有。

2  伸子の取得

(1)  同目録1(6)(7)の土地建物

(2)  同2の電話加入権

3  代償金

伸子は、他の相続人に対し、上記遺産取得の代償金として、それぞれ440万円を支払うべきである(末尾計算書(6)参照)。

(家事審判官 村田善明)

別紙 遺産目録及び計算書〈省略〉

編注 本審判に対しては、代償金の支払いを命じられた甲事件相手方から即時抗告があり、即時抗告審は原審判を一部変更したが、これは、即時抗告審の審理中に他の当事者が代償金の支払いに拘泥しない意思を示したため、抗告人に代償金の支払いを命じないこととし、その限度で原審判を変更したもので、その余の判断内容における変更点はない。

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